「わたしが仕事に来ないことは、みんな知っている」
幻聴に言われるまま、職場に全く連絡を入れずに、無断欠勤をして、自宅にこもっていました。
幻聴はさらにひどくなりました。
そして、頭の中におかしなことが駆けめぐりました。
自分自身で考えているわけではないのに、脳に情報が送りこまれているような感覚でした。
主に、幼少期から学生時代に残忍な犯罪を犯していたという、事実ではないことが、映像ととも駆けめぐっていました。
振り返ると事実ではないとすぐにわかることですが、その時は「わたしはなんて極悪人なんだ」と自分の偽りの犯罪に身震いしていました。
自分の偽りの罪と向き合わされているとき、自宅のインターホンが何度も鳴りました。
わたしの耳には、インターホンの音がかなり大きく聞こえていました。
統合失調症の症状で、聴覚が過敏になるという症状をあると言われています。
おそらくそういった症状のひとつだったのではないかと思います。
インターホンを押していたのは、無断欠勤してしまっている職場の方でした。
初めはインターホンが聞こえるだけでしたが、そのうち「くま子さんいるー?Aです。」と包括支援センターの管理者のAさんが、ドア越しに呼びかけてくださるようになっていました。
初めは音の大きさに恐怖感を抱いていたのが、次第に「来訪者が自分を殺しにきた」という妄想に変わり、信頼しているAさんであったにも関わらず、無視し続けました。
いつ頃かは忘れましたが、おそらくこの頃から、幻聴が人格をもったような存在になり、幻聴の命令に従って行動するようになっていました。
幻聴からは最低限の食事と水分補給を許されており、この日の昼は卵雑炊を作って食べました。
それ以外はベッドの上でうずくまって、偽りの罪と向き合い、時々ペットボトルに入れた水道水をがぶ飲みするという状況でした。
午後の3時くらいだったと思いますが、ベッドから起き上がって歩き出した途端、目の前が真っ暗になりました。
よろめき、ベッドのヘッドボードに首を強打し、床に倒れ、1時間半ほど気を失っていました。
意識が戻ったときは、首の痛みがあったのと、水を入れたペットボトルが倒れ、服が濡れていました。
そして夜になり、ドアの向こうから両親の声が聞こえてきました。
また、アパートの駐車場から人の声がよく聞こえるようになりました。
両親の声に安心することはなく、とにかく恐怖心でいっぱいで「みんなが集団でリンチしにきた」とい思いこんでいました。
幻聴からは「もう終わりなの、死ぬ覚悟をしなさい」と言われ続けていました。
初めは死にたくないと思っていましたが、次第に、「わたしは罪人、リンチされて死んだほうがいい」という思いになりました。
「もういいや…」と振り切った、死ぬ覚悟で玄関のドアを開けました。
ドアの向こう側には、母親と警察官が立っており、「無事でよかった」と声をかけられました。
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